短繊維と長繊維の違いとは?紡績糸・フィラメント糸が編物に与える影響

編物

編物の見た目や風合いは、編み方だけで決まるものではありません。

同じような編組織でも、使用する糸が違えば、表面の毛羽、光沢、柔らかさ、嵩、伸び方などは変わります。

その違いを理解するうえで重要なのが、短繊維(ステープル)と長繊維(フィラメント)です。

ただし、ここで注意したいのは、短繊維・長繊維は「繊維そのものの長さ」を表す言葉であり、編物に使う段階では、それらを加工した紡績糸やフィラメント糸として見ることが多いという点です。

この記事では、短繊維と長繊維の違いから、紡績糸・フィラメント糸の構造、編物にしたときの見た目や風合い、ピリングなどへの影響まで整理します。

短繊維と長繊維とは

繊維は、長さの違いから大きく短繊維(ステープル)長繊維(フィラメント)に分けることができます。

分類 意味 代表例
短繊維 一定の短い長さを持つ繊維 綿、羊毛、麻、カットしたポリエステルなど
長繊維 連続した長さを持つ繊維 絹、ポリエステルフィラメント、ナイロンフィラメントなど

日本化学繊維協会では、絹のように連続した長さを持つものを長繊維、木綿や羊毛のような短い繊維を短繊維として説明しています。

また、化学繊維は紡糸した時点では基本的に連続したフィラメントですが、必要な長さに切断すればステープルとして使用できます。

したがって、「ポリエステル=長繊維」というわけではありません。

ポリエステルにはフィラメントもステープルもあります。

短繊維を糸にすると紡績糸になる

短繊維は、そのままでは長い一本の糸として使えません。

そこで、多数の短繊維を引きそろえ、撚りを加えるなどして一本の連続した糸にします。

これが紡績糸(スパンヤーン)です。

日本化学繊維協会では、紡績を「ステープル(短繊維)を紡いで糸にする工程」としています。

原料繊維 糸の例
綿 綿紡績糸
羊毛 毛紡績糸
ポリエステル短繊維 ポリエステル紡績糸
綿+ポリエステル短繊維 混紡糸

短繊維の端部が糸表面に現れるため、紡績糸には毛羽が見られることがあります。

この毛羽や糸の嵩、撚りなどが、最終的な編地の表面感や風合いにも影響します。

長繊維を使うフィラメント糸

フィラメント糸は、連続した長繊維を使った糸です。

代表的な原料には、

  • ポリエステル
  • ナイロン
  • レーヨン

などがあります。

化学繊維では、紡糸口金から押し出された連続繊維をそのまま糸として利用できます。

フィラメント糸には、1本の比較的太いフィラメントを使うモノフィラメントと、多数の細いフィラメントを束ねて使うマルチフィラメントがあります。

種類 構造 用途例
モノフィラメント 1本の連続繊維 釣り糸、ネット、ブラシなど
マルチフィラメント 多数の連続繊維を束ねる 衣料、スポーツウェア、裏地など

衣料用途では、細いフィラメントを多数束ねたマルチフィラメントが広く使われています。:contentReference[oaicite:1]{index=1}

紡績糸とフィラメント糸の違い

項目 紡績糸 フィラメント糸
元になる繊維 短繊維 長繊維
糸の構造 多数の短繊維をまとめて糸にする 連続繊維をそのまま、または束ねて使用する
表面 毛羽が見られやすい 比較的平滑にしやすい
光沢 比較的抑えられやすい 光沢を持たせやすい
風合い 嵩や柔らかさを持たせやすい 滑らかさを持たせやすい

ただし、この表はあくまで一般的な傾向です。

実際の糸の性質は、原料、繊維径、撚り、加工方法などによって大きく変わります。

「長繊維=ツルツル」とは限らない

フィラメント糸は一般に表面を平滑にしやすいですが、すべてのフィラメント糸がツルツルしているわけではありません。

化学繊維のフィラメントには、熱や機械的な処理によって捲縮を付ける加工糸があります。

例えば仮撚加工によってフィラメントに捲縮を付与すると、

  • 嵩高性
  • 伸縮性
  • 柔らかな風合い

などを持たせることができます。

ニッセンケンでも、合成繊維フィラメント糸へ熱などによって捲縮加工を施すことで、嵩高性や伸縮性を発現させる加工糸が説明されています。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

つまり、長繊維か短繊維かだけで編地の触感を決めることはできません。

編物にすると何が変わるのか

編物は糸でループを形成し、そのループを連続させて生地を作ります。

そのため、使用する糸の構造は、編目の見え方や表面状態にも影響します。

例えば同じような天竺組織でも、綿の紡績糸とポリエステルフィラメント糸では、見た目や触った感覚が大きく異なることがあります。

ただし、その差は繊維長だけから生じるわけではありません。

実際には、

  • 素材
  • 糸の太さ
  • 撚り
  • フィラメント数
  • 加工糸かどうか
  • 編密度
  • 編組織
  • 染色・仕上げ加工

なども関係します。

短繊維系の編地に見られやすい特徴

紡績糸を使った編地では、糸表面にある毛羽が生地表面にも現れることがあります。

そのため一般的には、

  • 表面がやや毛羽立って見える
  • 柔らかな外観を作りやすい
  • 嵩を感じやすい
  • マットな表情を作りやすい

といった傾向があります。

ニッセンケンでも、短繊維から作る紡績糸は毛羽を持ち、柔らかな風合いを作りやすいと整理されています。:contentReference[oaicite:3]{index=3}

ただし、コーマ糸のように短い繊維を除去して毛羽を抑えた糸もあります。

カード糸とコーマ糸

綿紡績糸では、同じ短繊維でも製造工程によって糸の状態が変わります。

代表的なのがカード糸とコーマ糸です。

種類 概要
カード糸 一般にコーミング工程を通さない綿紡績糸
コーマ糸 コーミング工程で短い繊維などを除去した綿紡績糸

コーマ糸では短い繊維を除去するため、比較的均整の取れた細番手の糸を作りやすくなります。

つまり、同じ「綿の短繊維」でも、紡績工程によって糸の外観や品質は変わります。:contentReference[oaicite:4]{index=4}

長繊維系の編地に見られやすい特徴

フィラメント糸を使った編地では、短繊維端による毛羽が少ないため、比較的平滑な表面を作りやすくなります。

一般的には、

  • 表面を滑らかにしやすい
  • 光沢を出しやすい
  • 薄く均一な編地を作りやすい
  • フィラメント加工によって伸縮性や嵩を付与できる

といった特徴があります。

ただし、マット加工や異形断面、仮撚加工などを使えば、光沢を抑えたり、短繊維に近い触感を持たせたりすることもできます。

強度は長繊維の方が高いのか

一般的な傾向として、フィラメント糸は連続した繊維で構成されるため、高い糸強度を持たせやすい場合があります。

一方、紡績糸は短繊維同士の摩擦と撚りによって糸としての強さを得ています。

しかし、「長繊維なら必ず強い」「短繊維なら弱い」とは言えません。

強度には、

  • 繊維素材
  • 繊維径
  • フィラメント数
  • 撚り
  • 紡績方法
  • 糸の太さ
  • 編組織
  • 編密度

などが関係します。

編地として比較する場合は、糸だけではなく完成した生地の物性を見る必要があります。

ピリングは短繊維だけの問題ではない

毛玉、いわゆるピリングは、紡績糸を使用した編物で問題になることがあります。

着用中の摩擦などによって毛羽が引き出され、それらが絡み合って毛玉になります。

特に合成繊維を含む紡績糸では、形成された毛玉が脱落しにくい場合があります。

一方で、フィラメント糸なら絶対に毛玉ができないわけではありません。

ニッセンケンでも、フィラメント切れなどによって長繊維でも毛玉が発生する場合があると説明しています。:contentReference[oaicite:5]{index=5}

ピリングを見る場合は、繊維長だけではなく、繊維強度、毛羽、撚り、生地構造、摩擦条件なども考える必要があります。

天然繊維はすべて短繊維ではない

天然繊維では、綿、麻、羊毛などは基本的に短繊維として扱われます。

一方、絹は蚕が連続して繊維を吐き出すため、天然繊維の中では代表的な長繊維です。

繊維 基本的な繊維形態
綿 短繊維
羊毛 短繊維
短繊維として紡績利用されるものが多い
長繊維
ポリエステル 長繊維・短繊維の両方
ナイロン 長繊維・短繊維の両方

したがって、「天然繊維=短繊維」「化学繊維=長繊維」という覚え方は正確ではありません。

ポリエステルは短繊維にも長繊維にもなる

ポリエステルは、この違いを理解しやすい素材です。

ポリエステル樹脂を紡糸すると、まず連続したフィラメントを作ることができます。

このフィラメントをそのまま使用すればフィラメント糸になります。

一方、一定の長さに切断してステープルとし、紡績すればポリエステル紡績糸になります。

日本化学繊維協会でも、ポリエステルにはフィラメントとステープルの両方があり、フィラメントはそのまま、あるいは加工して織物・編物に、ステープルは紡績して使用されると説明しています。:contentReference[oaicite:6]{index=6}

用途から見る紡績糸とフィラメント糸

用途例 よく使われる糸の例
綿Tシャツ 綿紡績糸
スウェット 綿・ポリエステルなどの紡績糸
セーター 毛紡績糸、アクリル紡績糸など
スポーツウェア ポリエステル・ナイロンフィラメント糸など
ストッキング ナイロン・ポリウレタンなどのフィラメント糸
機能性インナー 加工フィラメント糸など

ただし、用途によって紡績糸とフィラメント糸を組み合わせることもあります。

実物を見るときのポイント

編物を手に取ったとき、短繊維系か長繊維系かを考えるなら、まず糸表面をよく見ます。

確認したいポイントは、

  • 毛羽が見えるか
  • 表面が平滑か
  • 光沢があるか
  • 糸に嵩があるか
  • フィラメントが束になって見えるか
  • 糸に捲縮があるか

などです。

ただし、目視だけで原料や糸構造を断定するのは難しい場合があります。

特に加工フィラメント糸は、見た目や触感が紡績糸に近いこともあります。

編物の違いは「繊維長だけ」では決まらない

短繊維と長繊維は、糸や編地を理解するための重要な要素です。

しかし、編物の最終的な性質を決めるのは繊維長だけではありません。

確認項目 見る内容
素材 綿、毛、PET、ナイロンなど
繊維長 短繊維か長繊維か
糸構造 紡績糸、フィラメント糸、加工糸など
糸の太さ 番手、dtex、デニールなど
撚り 撚り数、撚り方向など
編組織 天竺、リブ、経編など
密度 ウェール、コースなど
加工 起毛、樹脂加工、吸水加工など

そのため、

素材 → 繊維長 → 糸の構造 → 編組織 → 密度 → 加工

という順番で見ると、生地の違いを整理しやすくなります。

まとめ

短繊維は一定の短い長さを持つ繊維で、紡績によって糸にしたものが紡績糸です。

長繊維は連続した繊維で、そのまま、または複数本を束ねてフィラメント糸として使われます。

紡績糸は一般に毛羽や嵩を持たせやすく、フィラメント糸は比較的平滑な表面を作りやすい傾向があります。

ただし、加工フィラメント糸のように、長繊維へ捲縮を付けて柔らかさや嵩を出すこともできます。

また、ピリング、強度、光沢、風合いなども、短繊維・長繊維という分類だけでは決まりません。

編物を見るときは、繊維長だけでなく、糸の構造、太さ、撚り、編組織、密度、加工まで含めて考えることが重要です。

参考資料

※糸や編地の強度、毛羽、光沢、ピリング、風合いなどは、短繊維・長繊維という分類だけで決まるものではありません。原料、繊維径、繊維長、紡績方法、撚り、加工、編組織、密度などによって異なります。

コメント