繊維の強度・伸度・耐熱性・耐薬品性|素材による違いと見方

比較

繊維を選ぶとき、素材名と一緒に確認したいのが「強さ」「伸び」「水分」「熱」「薬品」に対する性質です。

例えば麻は引っ張りに強く伸びが小さい繊維です。一方、羊毛は麻とはかなり違った伸び方をします。綿やレーヨンは同じセルロース系でも、水に濡れたときの強度変化は同じではありません。

こうした違いを知っておくと、繊維の性能表を見たときに数字の意味が分かりやすくなります。

ただし、ここで扱うのは基本的に繊維そのものの性質です。実際の糸、生地、不織布の性能は、繊度や繊維長、目付、製法、構造、加工方法などによって変わります。

まず見るのは「強度」と「伸度」

繊維の機械的な性質を見るとき、基本になるのが強度と伸度です。

強度は、繊維を引っ張ったときに、どの程度の力まで耐えられるかを見るものです。

伸度は、繊維が切れるまでにどの程度伸びるかを表します。

ここで注意したいのが、「強い=優れた繊維」ではないことです。

あまり伸びずに大きな力に耐える繊維もあれば、引っ張ると大きく伸びる繊維もあります。用途によって必要な性質は変わります。

繊維 強度・伸びの大まかな特徴
綿 比較的強く、伸びは小さい
強度が高く、伸びが非常に小さい
羊毛 強度は高くないが、大きく伸びる
比較的強く、綿や麻より伸びる
レーヨン 乾燥時には一定の強度があるが、一般に湿潤時は低下する
ナイロン 強度が高く、伸びも大きい
ポリエステル 強度が高く、寸法安定性にも優れる

このくらいの特徴を把握しておけば、実際の規格表を見るときにも役立ちます。

g/d、cN/dtexとは何か

繊維の強度資料を見ると、「g/d」や「cN/dtex」という単位が出てきます。

dはデニール(denier)、dtexはデシテックスで、どちらも繊維や糸の太さを表すために使われる単位です。

単純な切断荷重だけで比べると、太い繊維ほど大きな力に耐えやすくなります。そのため、繊維の太さを考慮して強さを比較できるようにしたものが、こうした強度の表示です。

古い資料ではg/d、現在の技術資料ではcN/dtexなどが使われることがあります。複数の資料を比較するときは、数字だけでなく単位も確認します。

水に濡れると強度が変わる

繊維は、乾燥しているときと水に濡れているときで強さが変わることがあります。

分かりやすいのが綿と一般的なビスコースレーヨンです。

綿は水に濡れても強度を保ちやすく、湿潤時には乾燥時より強度が上がる性質があります。

一方、一般的なビスコースレーヨンは濡れると強度が低下します。この弱点を改善する目的で、湿潤強度や寸法安定性を高めた再生セルロース繊維も開発されてきました。

どちらもセルロースを主成分とする繊維ですが、水に対する挙動まで同じではありません。

洗濯、水中での使用、結露、屋外使用など、水分が関係する用途では乾燥時の性能だけを見ないことが重要です。

伸度が大きい=元に戻りやすい、ではない

伸度は「どこまで伸びるか」を見る数値です。

これと「伸ばしたあとに元へ戻るか」は別の性質です。

例えば、切れるまで大きく伸びる繊維でも、伸ばした分がそのまま残るのであれば、ゴムのような使い方はできません。

実際の製品では、伸度だけでなく弾性回復、構造、加工方法まで合わせて考えます。

ヤング率から分かること

繊維の資料では「ヤング率」や「初期弾性率」という言葉を見ることがあります。

簡単にいえば、引っ張ったときの変形しにくさを見るための指標です。

一般に数値が大きいほど一定の力に対して変形しにくく、小さいほど変形しやすくなります。

ただし、繊維そのもののヤング率が高いからといって、完成した生地や不織布が必ず硬くなるわけではありません。

同じ繊維でも、繊維の太さ、密度、織り方、編み方、目付、厚み、樹脂加工などによって、手で触ったときの硬さは変わります。

公定水分率を見る

繊維は周囲の水分をまったく含まないわけではありません。

繊維製品の混用率を扱う際には「公定水分率」という値が使われます。

繊維 公定水分率
15.0%
12.0%
12.0%
綿 8.5%
ナイロン 4.5%
アクリル 2.0%
ポリエステル 0.4%

出典:一般財団法人カケンテストセンター「繊維混用率試験」。繊維製品品質表示規程に基づく公定水分率。

この数字を見ると、毛や綿などとポリエステルでは、水分に対する性質がかなり違うことが分かります。

ただし、吸湿性と吸水性は同じではありません。

繊維自体が水分を吸収しにくくても、繊維間の隙間や表面を利用して液体を保持したり移動させたりすることはできます。

そのため、生地や不織布の吸水性能を公定水分率だけで判断することはできません。

耐薬品性は「酸に強い」「アルカリに弱い」だけでは決められない

繊維の資料には「耐酸性」「耐アルカリ性」といった項目があります。

ただし、実際の使用では薬品の種類だけでなく、濃度、温度、接触時間などによって影響が変わります。

繊維 大まかな傾向
綿・麻 アルカリには比較的強いが、強い酸には注意が必要
羊毛 アルカリの影響を受けやすい
レーヨン 薬品条件によって強度低下や損傷が起こるため確認が必要
アセテート 強アルカリや一部の有機溶剤に注意が必要
ポリエステル 多くの薬品に比較的安定だが、使用条件による確認が必要

産業資材では「耐薬品性あり」という一言だけで素材を決めるのは危険です。

実際に使用する薬品名、濃度、温度、接触時間を決めたうえで、使用する製品のメーカー資料や試験結果を確認します。

耐熱性も温度だけでは判断できない

熱についても同じです。

「何℃まで耐えられるか」という数字だけで判断したくなりますが、繊維によって高温時の挙動が違います。

綿やレーヨンなどのセルロース系繊維は、熱可塑性の合成繊維のように明確な融点を持って溶けるのではなく、高温になると着色や熱分解が進みます。

一方、ポリエステルやナイロンなどの熱可塑性繊維は、温度が上がると軟化し、さらに高温になると溶融します。

そのため耐熱性を確認するときは、融点だけを見るのではなく、実際の使用温度、加熱時間、荷重の有無なども考えます。

繊維の性能と製品の性能は別

ここは実際に素材を扱うときに重要です。

例えば「ポリエステルは強度が高い」という情報があっても、ポリエステル100%の生地や不織布がすべて同じ強度になるわけではありません。

同じPET100%でも、繊維の太さ、長さ、目付、厚み、繊維の配向、製法、接着方法、二次加工などが変われば、製品として測定した引張強度や伸びは変わります。

不織布では、MD(機械方向)とCD(幅方向)で引張強度が大きく異なる製品もあります。

そのため、繊維そのものの性能表は素材の性質を知るための資料として使い、実際に製品を選ぶときは、その製品の規格値や試験結果を確認します。

性能表は素材を絞り込むために使う

繊維の性能表には多くの数字が並びますが、すべてを覚える必要はありません。

まず「強さが必要なのか」「伸びが必要なのか」「水に濡れるのか」「薬品に触れるのか」「高温になるのか」と使用条件を整理します。

そこから候補となる素材を絞り、最後は実際に使用する糸、生地、不織布などの製品データを確認します。

繊維の性能値は、製品を決める答えではなく、素材を選ぶための入口として使う方が実務では分かりやすいです。

参考資料

この記事の数値・技術内容を確認する際に、以下の資料を参照しています。繊維の性能値は繊維の種類、製造条件、測定方法などによって変わるため、個別製品を選定する場合は各メーカーの規格値を確認してください。

※本記事は各繊維の一般的な性質を整理したものであり、特定メーカー・特定グレードの性能を保証するものではありません。

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