アウトドアウェアやスポーツウェア、傘、バッグなどでは、生地表面で水をはじく「撥水加工」が広く使われています。
その撥水加工を調べていると、近年よく見かけるようになったのが、
「PFASフリー」
「フッ素フリー」
「非フッ素撥水」
といった言葉です。
従来、繊維製品ではフッ素系の撥水剤が利用されてきました。
一方、PFAS(有機フッ素化合物群)の環境残留性などが国際的に問題となり、繊維・アパレル分野でもPFASを使用しない撥水加工への切り替えが進んでいます。
ただし、ここで注意したいのが、
「PFASフリー=撥水しない」ではない
ということです。
また、撥水・防水・耐水もそれぞれ意味が異なります。
この記事では、PFASとは何かという基礎から、なぜフッ素系撥水剤が使われてきたのか、PFASフリー撥水では何が変わるのかまで、繊維製品を中心に整理します。
- PFASとは
- なぜPFASが問題になっているのか
- PFASは繊維のどこで使われてきたのか
- そもそも撥水とは
- 撥水と防水は違う
- なぜフッ素系撥水剤が使われてきたのか
- PFASフリー撥水とは
- PFASフリーでも水をはじくことはできる
- フッ素系とPFASフリーでは何が違うのか
- C8・C6・PFASフリーの違い
- PFOS・PFOAとPFASの違い
- なぜ今PFASフリーへの切り替えが進んでいるのか
- 2026年現在、EUのPFAS規制はどうなっている?
- PFASフリーなら環境に優しいのか
- 撥水加工はなぜ洗濯すると落ちるのか
- 耐久撥水とは
- 撥水性能はどうやって評価するのか
- PFASフリー製品を見るときに確認したいこと
- 「フッ素フリー」という言葉にも注意
- 繊維製品は「素材+加工」で考える
- PFASフリーは「素材の変更」ではなく「加工技術の変更」であることが多い
- まとめ
- 参考資料
PFASとは
PFASは、Per- and Polyfluoroalkyl Substances(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)の総称です。
特定の一つの物質を指す名前ではなく、多数の有機フッ素化合物を含む大きなグループを表します。
欧州化学品庁(ECHA)は、PFASを数千種類に及ぶ合成化学物質の大きなグループとして説明しています。
PFASに共通する重要な特徴の一つが、非常に強い炭素-フッ素結合(C-F結合)を持つことです。
この強い結合によって高い安定性を持つ一方、環境中で分解されにくいことが問題となっています。
なぜPFASが問題になっているのか
PFASが注目されている大きな理由は、環境中での残留性です。
ECHAは、PFASの多くが環境中で分解されにくく、地下水、表層水、土壌などから検出されていることを説明しています。
また、PFASという非常に大きな物質群の中には、人の健康への悪影響との関連が指摘されている物質もあります。
ただし、すべてのPFASがまったく同じ性質・毒性を持つわけではありません。
PFASは非常に広い物質群であるため、個々の物質の性質と「PFAS全体」という分類は分けて考える必要があります。
PFASは繊維のどこで使われてきたのか
繊維分野でPFASと関係が深い用途の一つが、表面加工です。
特に、
- アウトドアウェア
- スポーツウェア
- レインウェア
- 作業服
- バッグ
- 靴
- 傘
- テント
- 各種産業用繊維資材
などでは、水や汚れへの対策としてフッ素系加工剤が利用されてきました。
ここで重要なのは、PFASがポリエステルやナイロンなどの繊維素材そのものを意味するわけではないという点です。
例えば「ポリエステル100%」と表示された衣料でも、その表面にどのような加工剤が使われているかは、素材表示だけでは分かりません。
そもそも撥水とは
撥水とは、生地表面で水をはじきやすくする性質です。
水滴が生地へ触れたとき、すぐ内部へ浸透せず、表面で水滴として残ったり転がったりする状態をイメージすると分かりやすいでしょう。
撥水加工では、生地表面の性質を変化させ、水が広がりにくい状態を作ります。
ただし、
撥水=水を完全に通さない
ではありません。
撥水と防水は違う
撥水と防水は混同されやすい言葉ですが、考え方が異なります。
| 性能 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 撥水 | 生地表面で水をはじきやすくする |
| 防水 | 水が生地を通過することを防ぐ |
| 耐水性 | 水圧に対して、どの程度水の浸透を防げるかを見る |
例えば、織物へ撥水加工を施しただけの場合、生地には糸と糸の隙間があります。
表面では水をはじいていても、水圧が加わったり長時間濡れたりすると、水が内部へ侵入する場合があります。
一方、防水生地ではコーティングやラミネートなどによって、水の通過そのものを抑える構造が使われることがあります。
そのため、撥水性と防水性は別々に確認する必要があります。
なぜフッ素系撥水剤が使われてきたのか
フッ素系撥水剤が長く利用されてきた理由の一つは、表面自由エネルギーを低くしやすいことです。
簡単にいえば、液体が生地表面へ広がりにくい状態を作ることができます。
特に従来のフッ素系加工では、水だけでなく油に対しても高い忌避性を持たせられることが大きな特徴でした。
これは非フッ素系撥水との違いを理解するうえで重要です。
衣料で求められる性能は、水をはじくだけとは限りません。
用途によっては、
- 油汚れ
- 皮脂
- 食品
- 泥汚れ
- 工業油
などへの対応も必要になります。
そのためフッ素系加工は、撥水・撥油性能を必要とするさまざまな繊維製品で使用されてきました。
PFASフリー撥水とは
PFASフリー撥水は、PFASに該当するフッ素系化学物質を使用せずに撥水性能を持たせる考え方です。
「非フッ素撥水」「フッ素フリー撥水」などと表現されることもあります。
非フッ素系の撥水加工では、シリコーン系や炭化水素系など、フッ素を使用しない技術が検討・利用されています。
ただし、
PFASフリーという言葉だけで、撥水性能や耐久性まで判断することはできません。
使用する加工剤や生地、加工条件によって性能は異なります。
PFASフリーでも水をはじくことはできる
「フッ素を使わなければ水をはじけない」というわけではありません。
非フッ素系の加工剤でも、生地表面を水が濡れ広がりにくい状態にすることで撥水性を付与できます。
そのため現在では、PFASを使用しない撥水加工が衣料やアウトドア製品などで採用されています。
重要なのは、
PFASを使っているか
と、
必要な撥水性能を満たしているか
を別々に確認することです。
フッ素系とPFASフリーでは何が違うのか
単純化すると、次のように整理できます。
| 項目 | 従来のフッ素系 | PFASフリー・非フッ素系 |
|---|---|---|
| 撥水 | 高い性能を設計可能 | 高い性能を持つ製品も存在 |
| 撥油 | 付与しやすい | 一般に難易度が高い |
| 環境残留への懸念 | PFASとして問題となる | PFASを使用しない |
| 耐久性 | 加工設計による | 加工設計による |
| 用途 | 衣料・産業資材など幅広い | 衣料を中心に採用が拡大 |
ここで「非フッ素=性能が低い」と決めつけるのは適切ではありません。
現在では非フッ素系でも高い撥水性能を持つ加工技術が開発されています。
一方、撥油性能など、フッ素系が得意としてきた機能を同じように再現することが難しい用途もあります。
C8・C6・PFASフリーの違い
繊維業界で撥水加工について調べると、C8、C6、C0という言葉を見かけることがあります。
従来、フッ素系撥水剤ではフルオロカーボン鎖などに関連してC8系、C6系といった呼び方が使われてきました。
環境・規制対応の中でC8系からC6系への切り替えが進んだ時期がありましたが、C6系だからPFASフリーという意味ではありません。
C6系にもPFASに該当する化学物質が含まれ得ます。
そのため現在の「PFASフリー」という流れは、単純なC8からC6への変更とは異なります。
また「C0」という表現が非フッ素撥水を意味するものとして使われる場合がありますが、製品仕様を確認するときは「C0」という呼称だけではなく、メーカーがどのようにPFASフリーを定義しているか確認することが重要です。
PFOS・PFOAとPFASの違い
PFASについて調べると、PFOSやPFOAという名称も出てきます。
これらはPFASという大きなグループに含まれる個別の物質です。
つまり、
PFAS > PFOS・PFOAなど
という関係で考えると分かりやすくなります。
PFOSやPFOAへの規制が進んだからといって、「PFAS全体への対応が完了した」という意味ではありません。
現在は、より広いPFAS群を対象とする規制の検討が進んでいます。
なぜ今PFASフリーへの切り替えが進んでいるのか
大きな背景にあるのが、PFASの環境残留性に対する国際的な懸念と規制強化の動きです。
EUでは、ドイツ、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの5か国が、幅広いPFASの製造・上市・使用を対象とするREACH制限案を提出しています。
2026年時点でも、この包括的なPFAS制限案について欧州化学品庁(ECHA)で評価が進められています。
そのため、
「EUではPFASがすでに全面禁止されている」
という説明は正確ではありません。
一部PFASについてはすでに規制がありますが、PFAS全体を対象とする包括的な制限については現在も制度化に向けたプロセスの途中です。
2026年現在、EUのPFAS規制はどうなっている?
この部分だけは時事情報です。
欧州化学品庁(ECHA)は2026年3月、PFASの包括的な制限案について、リスク評価委員会(RAC)が最終意見を採択し、社会経済分析委員会(SEAC)がドラフト意見をまとめたことを公表しました。
つまり2026年現在、EUでは広範なPFAS規制へ向けた検討がかなり進んでいますが、包括的なPFAS規制がすべて施行済みという段階ではありません。
なお、PFHxA、その塩および関連物質など、一部のPFASについてはすでに個別の規制が進んでいます。
※規制状況は今後変更される可能性があります。最新情報はECHAなど各国・地域の公的機関で確認してください。
PFASフリーなら環境に優しいのか
ここも注意が必要です。
「PFASを使用していない=環境負荷がない」ではありません。
PFASフリーは、PFASに関する問題への対応を示すものです。
しかし繊維製品全体の環境負荷を見るなら、
- 原料
- 加工剤
- 製造時のエネルギー
- 水使用量
- 耐久性
- 洗濯回数
- 製品寿命
- 廃棄・リサイクル
なども関係します。
そのため「PFASフリー」という一つの表示だけで、製品全体の環境性能を評価することはできません。
撥水加工はなぜ洗濯すると落ちるのか
撥水性能は、生地表面の状態に大きく影響されます。
着用や洗濯を繰り返すと、
- 摩擦
- 汚れ
- 皮脂
- 洗剤成分
- 表面加工の劣化
などによって、生地表面で水滴をはじきにくくなることがあります。
つまり、新品時の撥水性能だけではなく、洗濯や使用後にどれだけ性能を維持できるかも重要です。
この性能を考えるときに「耐久撥水」という考え方が出てきます。
耐久撥水とは
耐久撥水とは、洗濯や使用を繰り返した後でも撥水性能を維持することを狙ったものです。
ただし、「耐久撥水」という言葉だけで具体的な耐久回数が決まるわけではありません。
製品を比較するときは、
- どの試験方法を使用したか
- 何回洗濯した後の評価か
- どの程度の撥水等級を維持したか
まで確認する必要があります。
撥水性能はどうやって評価するのか
繊維製品の撥水性には、散水による濡れ方などを評価する試験方法があります。
日本ではJIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」などが用いられます。
撥水度を見る試験では、生地表面へ水をかけた後の濡れ状態を標準写真などと比較して評価します。
そのため、家庭で水滴を一滴落として丸くなったからといって、それだけで正式な撥水性能を判断することはできません。
PFASフリー製品を見るときに確認したいこと
衣料や繊維資材で「PFASフリー」と表示されている場合、実務では次のような点を確認すると分かりやすくなります。
| 確認項目 | 見る内容 |
|---|---|
| PFASの定義 | メーカーが何をPFASとして管理しているか |
| 撥水性能 | 必要な撥水レベルを満たしているか |
| 洗濯耐久性 | 洗濯後にも性能を維持できるか |
| 撥油性 | 用途として油への対応が必要か |
| 生地構造 | 織物・編物・不織布、コーティングなど |
| 用途 | 衣料、アウトドア、産業資材など |
| 規制 | 販売地域で対象となる規制 |
特にBtoBでは、単に「フッ素フリーですか?」だけではなく、どの物質を対象としているのかまで確認した方が安全です。
「フッ素フリー」という言葉にも注意
PFASについて調べると、「PFASフリー」「PFCフリー」「フッ素フリー」「非フッ素」といった複数の表現があります。
これらが常に完全に同じ意味で使用されているとは限りません。
特に製品や企業によって定義・管理対象が異なる可能性があります。
そのため技術資料を見るときは、キャッチコピーだけではなく、
対象物質・分析方法・基準値・メーカーの定義
まで確認することが重要です。
繊維製品は「素材+加工」で考える
PFAS問題は、繊維製品を理解するうえで重要なことを示しています。
衣料品の品質表示を見ると、
ポリエステル100%
ナイロン100%
綿100%
などと書かれています。
しかし、実際の製品性能は素材だけでは決まりません。
例えば同じポリエステル100%でも、
- 撥水加工
- 吸水加工
- 防汚加工
- 抗菌加工
- UV加工
- コーティング
- ラミネート
などによって機能は大きく変わります。
PFASフリー撥水も、その「二次加工」の一つとして考えると理解しやすくなります。
PFASフリーは「素材の変更」ではなく「加工技術の変更」であることが多い
ここも重要なポイントです。
例えばポリエステル製のジャケットをPFASフリー化するとき、必ずしもポリエステルそのものを別素材へ変更するわけではありません。
生地へ使用していた撥水加工剤を、PFASを使用しないタイプへ変更するというケースがあります。
つまり、
ポリエステル → 別の繊維へ変更
ではなく、
ポリエステル+従来の撥水加工 → ポリエステル+PFASフリー撥水加工
という変更です。
そのため、繊維業界では原料だけでなく、染色・整理加工を含めたサプライチェーン全体でPFASへの対応が必要になります。
まとめ
PFASは、多数の有機フッ素化合物を含む大きな物質群です。
非常に強い炭素-フッ素結合を持ち、安定した性質を利用してさまざまな用途で使用されてきました。
繊維分野では、特に撥水・撥油などの表面加工と関係があります。
一方、その分解されにくさや環境中での残留性などが問題となり、現在はPFASを使用しない撥水加工への切り替えが進んでいます。
ただし、
PFASフリー=撥水性能が低い
でも、
PFASフリー=環境負荷がゼロ
でもありません。
また、C6系だからPFASフリーというわけでもありません。
製品を見るときは、
素材 → 生地構造 → 撥水加工 → PFASの有無 → 撥水性能 → 洗濯耐久性 → 用途
という順番で整理すると分かりやすくなります。
そして2026年現在、PFASをめぐる規制は現在進行形で変化しています。
「PFASは禁止された」と一括りにせず、対象物質、対象用途、対象地域、施行時期を確認することが重要です。
参考資料
-
European Chemicals Agency(ECHA)「Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS)」
PFASの定義、環境残留性、個別規制およびEUにおける包括的なPFAS制限案の状況を参照。 -
European Chemicals Agency(ECHA)「ECHA supports PFAS restriction with targeted derogations」
2026年3月時点のEUにおけるPFAS包括制限案の評価状況、RAC最終意見およびSEACドラフト意見について参照。 -
European Chemicals Agency(ECHA)「ECHA publishes updated PFAS restriction proposal」
EUのREACHにおける包括的PFAS制限案と2025年に公表された更新案について参照。
※PFASに関する規制は国・地域・物質・用途によって異なり、現在も変更が続いています。本記事は2026年8月時点で確認できる公的情報を基にしています。製品の輸出入・販売・規制適合を判断する場合は、ECHAや各国当局などの最新情報を確認してください。

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