繊維の太さで不織布はどう変わる?|dtex・デニールと性能の関係

スパンボンド

不織布を比較するとき、素材や目付、厚みはよく確認します。

その一方で、意外と見落としやすいのが「1本の繊維がどのくらい太いのか」です。

例えば、同じPET100%、同じ100g/㎡の不織布でも、細い繊維をたくさん使ったものと、太い繊維を使ったものでは構造が変わります。

ただし、「太い繊維=強い」「細い繊維=柔らかい」と単純に決めることはできません。

不織布の性能は、繊維の太さだけでなく、素材、繊維長、目付、繊維配向、接着・絡合方法などによって決まるからです。

この記事では、繊維の太さを表すdtex(デシテックス)とデニールの基本から、繊維を細くすると不織布の構造がどう変わるのかまで整理します。

繊維の「太さ」とは何を表しているのか

繊維業界では、繊維の太さを表すときにdtex(デシテックス)denier(デニール)という単位を使います。

ここで注意したいのは、dtexやデニールは繊維の直径そのものを表しているわけではないことです。

一定の長さの繊維が何gあるのかという、単位長さ当たりの質量で表します。

単位 定義
1 dtex 10,000mの繊維が1gとなる線密度
1 denier(D) 9,000mの繊維が1gとなる線密度

そのため、同じ素材・同じ断面形状の繊維を比較するのであれば、dtexの数値が小さいほど細く、大きいほど太いと考えることができます。

デニールとdtexには、

1D ≒ 1.11dtex

という関係があります。

例えば2Dなら約2.22dtexです。

dtexが同じなら直径も同じなのか

必ずしも同じではありません。

dtexは重さを基準にした値だからです。

繊維の直径を考える場合には、素材の密度や断面形状も関係します。

例えば、丸断面の繊維だけでなく、異形断面や中空構造を持つ繊維もあります。

そのため、「2dtex=直径○μm」と素材や構造を無視して一律に換算することはできません。

不織布の仕様書を見るときは、dtexとμmを同じものとして扱わないことが重要です。

同じ目付でも繊維の太さによって構造が変わる

ここが不織布を考えるうえで重要です。

例えば、同じ素材で100g/㎡の不織布を作るとします。

太い繊維を使用した場合と細い繊維を使用した場合では、1㎡の中に存在する繊維の総延長や本数が変わります。

同じ質量であれば、細い繊維ほどより長い繊維を使うことができます。

つまり、同じ100g/㎡でも内部構造は同じではありません。

繊維を細くすると 構造上起こり得る変化
同じ質量で使える繊維長 長くなる
構成する繊維の本数 増える
総表面積 大きくなる
繊維同士の接点 増える可能性がある
空隙構造 より細かな構造を作りやすくなる

ただし、実際の不織布では繊維の配向や密度、結合方法なども関係するため、繊維の太さだけから空隙や性能を決めることはできません。

細い繊維を使うと何が変わるのか

繊維を細くする大きな理由の一つは、同じ質量でも多くの繊維を配置できることです。

繊維の総表面積も大きくなるため、フィルターなど表面を利用する用途では重要な要素になります。

また、細い繊維を多数配置することで、粗い繊維だけで構成した場合よりも細かな空隙構造を形成しやすくなります。

この特徴を利用した代表的な不織布がメルトブローです。

メルトブローはなぜ細い繊維を使うのか

メルトブローは、溶融した樹脂を高速の熱風によって細く引き伸ばしながら繊維化する製法です。

非常に細い繊維を形成できることが特徴で、フィルターや吸収材などに使用されています。

メルトブローの繊維径は製品や製造条件によって異なりますが、数μm程度、あるいはそれ以下の細い繊維を形成することもできます。

細い繊維を多数配置することで大きな表面積と細かな繊維構造を作れるため、ろ過用途との相性がよくなります。

ただし、フィルター性能は繊維径だけで決まりません。

目付、厚み、空隙構造、帯電処理、対象となる粒子、使用条件なども関係します。

スパンボンドはメルトブローより太い繊維が一般的

スパンボンドも、樹脂を溶かして連続した繊維を作る不織布です。

ただし、一般的なスパンボンドではメルトブローより太い繊維が形成されます。

公開されている技術資料の一例では、SMS不織布を構成するスパンボンド層の平均繊維径として10~30μm、メルトブロー層では0.1~7μmという範囲が示されています。

これはスパンボンド、メルトブローすべてに共通する固定値ではなく、製品設計や製造条件によって変わります。

重要なのは、スパンボンドとメルトブローでは、求める繊維径や不織布の役割が違うということです。

「太い繊維=強い」とは限らない

ここは誤解しやすいところです。

同じ素材の繊維1本だけを比較すれば、一般に断面積の大きい繊維の方が大きな荷重を受けられる可能性があります。

しかし、不織布全体の強度は繊維1本だけでは決まりません。

例えば、

  • 目付
  • 繊維の素材
  • 繊維の配向
  • MD・CD
  • 接着点の数と状態
  • ニードリングなどの絡合状態
  • 熱圧着条件

などが関係します。

そのため、5dtexの不織布だから1dtexの不織布より強いという比較はできません。

繊度は、不織布の性能を決める要素の一つとして考える必要があります。

「細い繊維=柔らかい」とも限らない

細い繊維を使用すると、しなやかな構造を作りやすくなる場合があります。

しかし、不織布の風合いも繊度だけでは決まりません。

例えば細い繊維を使っていても、熱圧着を強くしたり樹脂加工を行ったりすれば、硬い不織布になることがあります。

反対に、比較的太い繊維でも、嵩高く柔らかい構造に設計することは可能です。

現物を触ったときの「柔らかい」「硬い」という感覚を、繊度だけから判断しない方が安全です。

SMSは太さの違う繊維を組み合わせている

繊維の太さの違いを理解しやすい例が、SMS不織布です。

SMSは、

  • S:Spunbond(スパンボンド)
  • M:Meltblown(メルトブロー)
  • S:Spunbond(スパンボンド)

を積層した構造です。

一般に外側のスパンボンド層と、内側のメルトブロー層では繊維径が大きく異なります。

つまり、すべてを同じ太さの繊維で作るのではなく、異なる構造を持つ層を組み合わせています。

スパンボンド層とメルトブロー層それぞれの特徴を利用し、単層とは異なる性能を持たせる考え方です。

繊度と目付は別の数字

不織布を扱い始めたときに混同しやすいのが、繊度と目付です。

項目 何を表しているか 代表的な単位
繊度 1本の繊維・糸の線密度 dtex、denierなど
目付 不織布1㎡あたりの質量 g/㎡
厚み シートとしての厚さ mm、μmなど
繊維径 繊維の直径 μmなど

例えば「30g/㎡」という数字を見ても、使用している繊維が何dtexなのかは分かりません。

逆に「2dtexのPET繊維」と分かっても、それだけでは完成した不織布の目付や厚みは分かりません。

この4つを別々の情報として見ることが、不織布を理解するうえで重要です。

実物を見るときは何を確認するか

仕様書に繊度が書かれている場合は、まずその数字を確認します。

ただし、数字だけを見るのではなく、実物の状態と合わせて見る方が分かりやすくなります。

例えば、

  • 表面の繊維が目で確認できるか
  • 表面が滑らかか、粗く感じるか
  • 同じ目付で厚みに差があるか
  • 光に透かしたときの均一性
  • 曲げたときの感触

などです。

ただし、これらから繊度を正確に特定することはできません。

見た目や手触りは、繊度以外の条件にも大きく影響されるからです。

不織布を選ぶとき、繊度だけで選ばない

「細い方が高性能」「太い方が丈夫」と考えてしまうと、材料選定を間違えることがあります。

最初に考えるべきなのは、最終製品で何をさせたいのかです。

求めるもの 一緒に確認したい項目
ろ過 繊維径、目付、厚み、空隙構造、圧力損失など
強度 素材、目付、MD/CD、結合・絡合状態など
柔らかさ 繊度、結合状態、厚み、後加工など
通気性 繊維構造、目付、厚み、密度など
吸液・保液 素材、繊維構造、親水性、空隙など

繊維の太さは重要ですが、それだけで最終性能を決める数字ではありません。

まとめ

繊維の太さは、不織布の構造を考えるための重要な要素です。

dtexやデニールは繊維の直径そのものではなく、一定長さあたりの質量を表しています。

同じ素材・同じ目付で比較した場合でも、使用する繊維を細くすると、構成する繊維の本数や総延長、表面積などが変わります。

そのため、繊度の違いは不織布の空隙構造や風合い、ろ過性能などに影響する可能性があります。

一方で、「太い=強い」「細い=柔らかい」と単純に判断することはできません。

不織布の性能は、素材、繊度、目付、厚み、繊維配向、結合・絡合方法、後加工などを組み合わせて決まります。

仕様書を見るときは「PET・30g/㎡」だけではなく、必要に応じて繊度や繊維径まで確認すると、その不織布がなぜその性質を持っているのかが見えやすくなります。

参考資料

※繊維径や不織布の性能は、素材、製品設計、製造条件によって異なります。本記事に記載した繊維径の数値はすべてのスパンボンド・メルトブロー製品に共通する規格値ではありません。

コメント