吸水性と吸湿性の違いとは?ポリエステルが汗を吸わなくても速乾する理由

不織布

「綿は汗を吸う」「ポリエステルは汗を吸わない」「速乾性がある」──。

衣類や繊維製品について調べると、このような説明をよく見かけます。

しかし、ここには吸水性・吸湿性・速乾性という別々の性質が混ざっています。

例えばポリエステルは、繊維そのものの吸湿性が非常に低い素材です。

一方で、繊維形状や糸、生地構造、加工を工夫することで、水分を吸い上げて表面へ拡散する吸水速乾素材を作ることができます。

つまり、

「吸湿しない=汗を移動させられない」ではありません。

この記事では、吸水性・吸湿性・速乾性の違いを整理しながら、綿やポリエステル、不織布などを例に、水分と繊維の関係を実務的に解説します。

吸水性・吸湿性・速乾性は別の性質

まず最初に、この3つを分けて考える必要があります。

用語 簡単にいうと 主に関係するもの
吸湿性 空気中の水蒸気を繊維内部へ取り込む性質 繊維そのものの化学的性質
吸水性 液体の水を生地や繊維集合体へ取り込む性質 素材、繊維形状、糸、生地構造、毛細管現象、加工など
速乾性 取り込んだ水分が短時間で外へ移動・蒸発しやすい性質 保水量、拡散性、表面積、生地構造など

この3つは関連しますが、同じ意味ではありません。

特に間違えやすいのが、吸湿性と吸水性です。

吸湿性とは

吸湿性は、空気中に存在する水蒸気を繊維が取り込む性質です。

ニッセンケン品質評価センターでは、繊維の水分率について、繊維の化学構造によって水分との親和性が異なることを説明しています。

綿やレーヨンなどのセルロース系繊維は水分を取り込みやすい一方、ポリエステルは水との親和性が低く、吸湿性が非常に低い繊維です。

ポリエステルの公定水分率は約0.4%とされ、綿の約8.5%と比べても大きな差があります。

つまり、ポリエステルは空気中の湿気を繊維内部へ取り込みにくい素材です。

吸水性とは

吸水性は、液体の水を取り込む性質です。

ここで重要なのは、吸水は必ずしも「繊維内部に水が入る」ことだけを意味しないという点です。

繊維と繊維の間、糸と糸の間、生地内部の細い空間へ水が移動することもあります。

このとき重要になるのが毛細管現象です。

細い隙間へ水が引き込まれる現象を利用すれば、素材自体の吸湿性が低いポリエステルでも、生地として高い吸水性を持たせることができます。

「吸湿性が低いポリエステル」が汗を吸える理由

ここが最も混乱しやすいところです。

ポリエステル繊維そのものは疎水性で、水分を内部へ取り込みにくい素材です。

しかし、ポリエステル製のスポーツウェアなどには「吸汗速乾」をうたう製品が多数あります。

これは矛盾ではありません。

ニッセンケンでは、ポリエステルの吸水性を高める方法として、

  • 生地組織によって肌側から表面へ水分を移動させる
  • 異形断面糸による毛細管現象を利用する
  • 染色・仕上げ工程で吸水加工を施す

などを挙げています。

つまりポリエステルの場合、

繊維自体が水を大量に抱え込むのではなく、繊維間や生地構造を使って水を移動・拡散させる

という設計ができます。

異形断面糸と毛細管現象

通常の丸い断面ではなく、溝や凹凸を持つ断面形状にしたポリエステル繊維があります。

このような異形断面によって細かな隙間を作り、水分を毛細管現象で移動させることができます。

東レの「セオアルファ®」では、繊維断面形状と混繊技術によって毛細管吸収構造を作り、高い吸水性を持たせています。

つまり、

ポリエステルだから吸水しない

ではなく、

ポリエステルという素材に、どのような繊維形状・糸・生地構造を与えているか

まで見る必要があります。

なぜポリエステルは乾きやすいのか

ポリエステルは、繊維内部に水分を取り込みにくいことが速乾性につながります。

水分を多く保持する素材では、繊維内部に取り込まれた水分が外へ出るまで時間がかかります。

一方、ポリエステルは吸湿量が少ないため、水分を生地表面へ拡散できれば蒸発させやすくなります。

そのため、スポーツウェアなどでは、

吸い上げる → 広げる → 蒸発させる

という考え方が重要になります。

東レも、極細ポリエステル繊維や特殊構造によって、汗を内部に保持せず表面へ拡散させる技術を実用化しています。

綿はなぜ汗を吸いやすいのか

綿はセルロースを主成分とする繊維で、ポリエステルより高い吸湿性を持ちます。

そのため、空気中の水蒸気だけでなく、衣服として汗に触れたときにも水分を保持しやすい素材です。

ただし、

水分を多く取り込めることと、早く乾くことは別問題

です。

綿は水分を保持しやすいため、条件によっては濡れた後に乾くまで時間がかかります。

このため、綿とポリエステルには「どちらが優れている」という単純な関係ではなく、水分の扱い方に違いがあります。

綿とポリエステルを実物で比較する

綿織物とポリエステル織物の実物写真を掲載します。

ここで注意したいのは、写真だけを見ても吸湿性や速乾性は判断できないことです。

綿かポリエステルかという素材情報に加え、

  • 糸の太さ
  • 糸の構造
  • 織密度
  • 厚み
  • 目付
  • 仕上げ加工

などが水分挙動に影響します。

今回掲載する写真は、素材によって外観や生地構造が異なることを示す実物例として使用しています。

不織布でも素材だけでは水分挙動を判断できない

この考え方は織物や編物だけではありません。

不織布でも同じです。

例えば、手元にあるスパンボンド不織布を比較すると、PPとPET、目付の違いによって外観や繊維の見え方が異なります。

PP30g/㎡とPET30g/㎡を比較

左:PPスパンボンド30g/㎡、右:PETスパンボンド30g/㎡。同じ目付でも素材・繊維構造・表面状態は同一ではない。

上の2枚は、どちらも30g/㎡のスパンボンド不織布です。

左がPP、右がPETです。

目付は同じですが、素材が異なります。

ただし、この写真だけから「どちらがより水を吸うか」を判定することはできません。

PPもPETも本来は疎水性の高い素材であり、実際の濡れ方には繊維径、エンボス、空隙構造、親水加工などが影響します。

PP30g/㎡の実物

PPスパンボンド 30g/㎡。表面には熱接着による点状の結合部が確認できる。

PET30g/㎡の実物

PETスパンボンド 30g/㎡。同じ30g/㎡でもPP品とは表面の見え方が異なる。

同じPPでも目付が違えば構造が変わる

さらに、同じPPスパンボンドでも目付が違えば、単位面積あたりに存在する繊維量が変わります。

PPスパンボンド 20g/㎡。

今回の手元サンプルには、PP20g/㎡とPP30g/㎡があります。

サンプル 素材 目付
PP20 PP 20g/㎡
PP30 PP 30g/㎡
PET30 PET 30g/㎡

同じPPでも、20g/㎡と30g/㎡では単位面積あたりの質量が異なります。

そのため、空隙や遮蔽性、厚み、通気性などにも違いが生じる可能性があります。

ただし、ここでも目付だけから吸水量を決めることはできません。

PPは水を吸わないのか

PP(ポリプロピレン)は非常に疎水性が高く、繊維そのものは水分を取り込みにくい素材です。

日本化学繊維協会も、PPについて吸湿・吸水性が低く、速乾性に優れることを特徴として挙げています。

しかし、不織布製品として見ると話は少し変わります。

例えばPPスパンボンドに親水処理を施せば、水が表面を濡らしやすくなり、シートを通過しやすくすることもできます。

紙おむつなどの衛生材料でPP不織布が使われる場合にも、このような表面処理が重要になります。

つまり、

PP=水を必ずはじく

ではありません。

素材本来の性質と、完成した不織布の表面特性は分けて考える必要があります。

「撥水」と「吸水しない」も同じではない

水分に関する用語では、「撥水」も混同されやすい言葉です。

撥水性とは、表面で水滴をはじく性質です。

一方、素材そのものの吸湿性が低いこととは意味が異なります。

例えばポリエステルは吸湿性が低い素材ですが、生地表面へ吸水加工を施すことができます。

逆に、吸湿性を持つ素材でも表面に撥水加工を施せば、水滴をはじく製品を作ることができます。

したがって、

吸湿性・吸水性・撥水性・耐水性

は別々に確認する必要があります。

吸水性は素材だけでは決まらない

吸水性を考える場合、最低でも次の項目を見る必要があります。

要素 水分挙動への影響例
繊維素材 水との親和性、吸湿性
繊維径 繊維間の空隙や毛細管構造
断面形状 溝などによる水分移動
糸構造 紡績糸、フィラメント糸などによる空隙差
織・編構造 水分が移動する経路
不織布構造 繊維配向、空隙、目付、結合状態
後加工 親水、吸水、撥水など

そのため、「綿だから吸水する」「ポリエステルだから吸水しない」という説明だけでは不十分です。

吸水性が高ければ快適なのか

これも一概には言えません。

衣料の場合、汗を大量に吸っても、生地内部に水分が長時間残れば、肌に張り付いたり乾きにくくなったりします。

一方、吸水量自体はそれほど大きくなくても、汗を肌側から表面へ素早く移動し、広い面積へ拡散できれば乾燥を促進できます。

そのためスポーツウェアでは、単純な「吸水量」だけではなく、

  • 吸水速度
  • 拡散性
  • 保水量
  • 乾燥速度
  • 肌離れ

なども重要になります。

速乾性も素材名だけでは決まらない

ポリエステルは一般に速乾性を持たせやすい素材ですが、すべてのポリエステル生地が同じ速度で乾くわけではありません。

厚いポリエステル生地と薄い綿生地を比較すれば、条件によって結果は変わります。

目付、厚み、生地構造、吸水加工、環境温度、湿度、風なども乾燥速度に影響します。

そのため、素材名だけから乾燥時間を断定することはできません。

家庭で比較するときは条件をそろえる

今後、綿とポリエステルの実物を使って水分挙動を簡易比較する場合は、条件をそろえる必要があります。

例えば、

  • 同じ面積に切る
  • 乾燥時重量を測る
  • 同じ量の水を滴下する
  • 同じ室温・湿度で置く
  • 一定時間ごとに重量を測る

といった方法です。

ただし、このような試験は家庭・簡易環境での比較であり、JISなどに基づく正式な性能試験とは区別する必要があります。

本記事では現時点で水滴投下による実験を行っていないため、掲載写真から吸水性能の優劣を判断していません。

「汗を吸う」を分解して考える

日常では「汗を吸う」という一言で表現しますが、繊維技術として見ると複数の現象があります。

例えば、

汗が生地へ触れる

水分が生地へ入り込む

繊維間を移動する

生地表面へ広がる

蒸発する

という一連の流れがあります。

このどこを改善するかによって、使われる素材や構造、加工方法も変わります。

繊維製品を見るときの実務的な考え方

吸水性や速乾性を確認するときは、次の順番で考えると整理しやすくなります。

素材 → 繊維形状 → 糸 → 生地構造 → 目付・厚み → 後加工 → 使用環境

例えば「ポリエステル100%」と書かれていても、それだけでは吸水速乾性能は分かりません。

逆に、綿100%だから必ず快適とも限りません。

素材表示は製品を理解する入口ですが、性能そのものではありません。

まとめ

吸水性、吸湿性、速乾性は似た言葉ですが、それぞれ異なる性質です。

吸湿性は主に空気中の水蒸気を繊維内部へ取り込む性質で、綿などは比較的高く、ポリエステルは非常に低い素材です。

一方、吸水性は液体の水が生地へ取り込まれる性質であり、素材だけではなく繊維形状、糸、生地構造、毛細管現象、後加工なども関係します。

そのため、吸湿性の低いポリエステルでも、異形断面糸や編織構造、吸水加工によって汗を吸い上げ、拡散させることができます。

また、ポリエステルは水分を繊維内部へ保持しにくいため、適切に水分を拡散できれば速乾性を持たせやすくなります。

今回掲載したPP20g/㎡、PP30g/㎡、PET30g/㎡の不織布を見ても、素材や目付によって構造が異なることが分かります。

ただし、見た目だけで吸水性を判断することはできません。

繊維製品の水分特性を見るときは、

素材名だけではなく、繊維・構造・加工まで見る。

これが最も重要です。

参考資料

※吸水性、吸湿性、速乾性は、素材名だけで決まるものではありません。繊維形状、糸構造、織編・不織布構造、目付、厚み、後加工、使用環境などによって異なります。本記事中の実物写真は構造・外観比較を目的としたものであり、写真のみから吸水性能の優劣を示すものではありません。

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